事例にみる 遺言能力判断の考慮要素-心身の状況、遺言の内容、合理性・動機等-


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目次
序 章 考え方と傾向
1 全体的な考え方
2 第1章における傾向
3 第2章における傾向
4 第3章における傾向
第1章 認知症が軽度~中等度の場合
第1 遺言能力が認められた事例
〔1〕 遺言作成後のHDS-Rが15点であった遺言者につき、養子縁組無効確認調停申立てがなされ、それをきっかけとして遺言を作成した旨の手紙が残されており、本件遺言が遺言能力を欠いていたものであるとは認められないとして、遺言の有効性が認められた事例
〔2〕 遺言者は特定不能の認知症との診断を受けており、遺言作成後には遺言者に成年後見開始審判がなされている事案で、各種の能力診断テストが実施されており、能力が保持されていることがうかがわれるとともに、財産を勝手に処分した長男を廃除して、長女に全財産を相続させるとした遺言の有効性が認められた事例
〔3〕 遺言者は認知症との診断を受けているものの、遺言前のMMSEが20点であるなど比較的高い点数となっており、その後に能力低下を示すような経過は認められないため、関係の深かった妹の家族に財産を相続させ、関係の希薄であった兄たちの家族には財産を相続させないとする遺言の有効性が認められた事例
〔4〕 独身で子のない遺言者がアルコール性肝硬変で救急搬送され、その時点でのHDS-Rは13点であり、その2か月後に長年の愛人の長男に財産を遺贈する公正証書遺言を作成し、その20日後に死亡したという事案で、遺言者の意識レベルは保たれており、遺言内容も単純で不自然な点はないことから、遺言能力がなかったとはいえないと判断された事例
〔5〕 遺言者の子の間で、任意後見発効に対する保佐開始審判申立ての対抗措置、連れ去りに対する人身保護請求の対抗措置など多くの紛争が生じた事案で、遺言者の遺言前後のHDS-Rの点数は26~14点と比較的軽度のレベルに安定していたため、意思能力を欠いていたとはいえないと判断された事例
〔6〕 遺言者が4つの遺言を残し、一度は全部撤回しているため、共同相続人間で遺言能力が争われたものの、頻繁にMMSEやHDS-Rが実施されており、遺言者の認知症は中等度にとどまっていることがエビデンスとして示され、遺言内容も比較的単純で被告を廃除する内容も異常ではないとして、いずれの遺言も有効と判断された事例
〔7〕 遺言者が全財産を長男に相続させるという遺言を残したため、二男がその効力を争ったものの、二男は夫の兄と養子縁組をしており、特別受益を受けている上、一度実施されたHDS-Rで遺言者の認知症は軽度であることがエビデンスとして示され、遺言内容も単純で動機にも合理性があるとして、遺言は有効と判断された事例
〔8〕 夫の相続について二女と争いになった遺言者が、全財産を三女の子(養子縁組もしている)に相続させるという遺言をなしたため、二女が遺言能力を争ったものの、遺言4か月前に実施されたMMSEは15点、HDS-Rは14点と比較的高い点数であり、遺言内容の単純性と合理性も考慮して、遺言は有効と判断された事例
〔9〕 父親と孫との養子縁組について、孫の親である長男と長女・二女との間に法的紛争が継続していたところ、最終的には父親と長男との関係が悪化したことにより、長女と二女に相続させる旨の遺言が作成されたため、長男が遺言者である父親の遺言能力を争ったものの、遺言は有効と判断された事例
〔10〕 長女と二女ら(二女と養子で二女の夫)との間で、5通作成された遺言が有効か無効か争いとなった事案で、MMSEは17点であったものの、鑑定書で軽度との診断が記載されており、遺言の内容は一貫しており、長女にも遺産を分けてあげたいと考えたとしても不自然ではないとして、全ての遺言が有効と判断された事例
〔11〕 長男への特別受益の持戻しを免除した自筆証書遺言について、長女が遺言者には遺言能力がなかったと争った事案で、HDS-Rが14~16点、MMSEが18点であった上、遺言内容も複雑ではなく、内容も不合理なものではないとして、遺言が有効と判断された事例
〔12〕 妹4人に遺産を平等に相続させるという遺言を撤回し、1人の妹の長女と養子縁組して、その養子に当たる孫に遺産を相続させるという2通の遺言を作成したため、他の妹が遺言者には遺言能力がなかったと争った事案で、HDS-Rが17点であり、遺言内容も単純で、医院を継いでもらう目的で不合理なものではないとして、遺言が有効と判断された事例
〔13〕 遺言者が甥に対して自宅以外の不動産を負担付遺贈した遺言につき、遺言者の妻が無効を争った事案において、遺言の1年ほど前に実施したHDS-Rは24点で非認知症と診断され、その後に認知症が著しく進行したとは認められないとして、遺言が有効と判断された事例
〔14〕 遺言者が子と子の妻及び養子縁組をした孫とに均等に遺産を相続させるとした遺言につき、遺言者の子が無効を争った事案において、遺言の2年半前に実施したHDS-Rは23.5点で、その後に認知症が著しく進行したとは認められないとして、遺言が有効と判断された事例
〔15〕 遺言者が内縁の妻に銀行預金等を遺贈した遺言につき、遺言者の子らが遺言の無効を争った事案において、遺言の2年前に実施したHDS-Rは12点であったが、その後、遺言時にはHDS-Rが15点に改善していた上、遺言内容は単純で不自然とはいえないとして、遺言能力が欠けていたとはいえないと判断された事例
〔16〕 遺言者が孫のいない子に4分の1、孫のいる子に4分の3と相続分を指定した遺言につき、4分の1とされた子が遺言能力を争った事案につき、相続分の指定は複雑なものではなく、孫に資産を残したいという動機も了解可能なものであるとして、遺言能力がなかったとはいえないと判断された事例
〔17〕 遺言直前に行われたMMSEは22点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえないし、動機も不自然であるとはいえないのであって、遺言後に実施されたMMSEでも20点となっているため、認知症の程度は軽度であるといえ、本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたとは認められないとして、遺言の有効性が認められた事例
〔18〕 遺言4か月後に行われたHDS-Rは19点・MMSEは20点、9か月後のHDS-Rも18点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえず、遺言者が変更理由を遺言に付言として記載しているものであるとして、遺言の有効性が認められた事例
〔19〕 遺言者はずっと要介護1の認定を受けており、遺言前にはHDS-Rが20点であったが、遺言直後に行われたHDS-Rが12点に低下していたことや遺言がひらがなで誤字もあることから、遺言能力が争われた事案で、遺言者が意思能力を保持していると思われるトピックを認定し、遺言内容も比較的単純であることなどから、遺言者は遺言能力を有していたと認められた事例
〔20〕 遺言前に行われたHDS-Rも15点であって、遺言の内容も複雑なものとはいえないし、心情としても理解し得るものであって、本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたとは認められないとして、遺言が有効性が認められた事例
第2 遺言能力が認められなかった事例
〔21〕 遺言書作成の前後でHDS-Rが20点から11点に低下しており、遺言内容や動機に照らして、遺言者が被害妄想に支配されていたと認定し、遺言能力を否定した事例
〔22〕 遺言書作成の前に成年後見開始審判が申し立てられていることを知っていながら、それを無視して遺言作成を行ったという事案で、HDS-Rは13点とされているものの、遺言内容は単純なものとはいえず、動機も明確でなく被告の上記態度は消極的に作用するとして、遺言能力を否定した事例
〔23〕 遺言書作成の前に成年後見開始審判が申し立てられており、遺言作成の2か月後のHDS-Rは14点と比較的高かったものの、3か月後にはHDS-Rは4点と著しく低下した事案で、遺言者が全財産を妻に相続させるとの遺言で補充遺言までしていたにもかかわらず、全財産を子の一人に相続させると変更した合理性は認められず、自己の財産を認識できていなかったとして、遺言能力を否定した事例
〔24〕 遺言書作成の2年半前に実施された認知症スケールの結果は13点と認知症は中等度であったものの、その後の心身の状況変化によって判断能力が著しく低下したものとして、遺言能力を否定した事例
〔25〕 遺言書作成の4か月前のHDS-Rは15点、1か月前は14点と比較的高かったものの、遺言者には被害妄想等があり、遺言内容に合理性を欠いていることから、誘導によって遺言を書かされた可能性も否定できないとして、遺言能力を否定した事例
〔26〕 遺言書作成の7か月前のHDS-Rは13点、6か月後も13点と比較的高く安定していたものの、遺言者には暴力行為などの問題行動もあり、遺言内容は被告の意思内容が反映されたものにすぎないとして、遺言能力を否定した事例
〔27〕 遺言書作成の3か月後のMMSEは15点であったが、遺言者の感情は不安定