完全版 袴田事件を裁いた男 無罪を確信しながら死刑判決文を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落
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こんなデタラメな証拠で人を有罪にするのは、それも死刑にするなんて無茶だ。当時30歳だった裁判官の熊本は異議を唱えるが、2人の先輩裁判官に押し切られ、最終的には多数決で負けて、心にもない「死刑判決文」を書くことになる。
熊本は懊悩し、裁判官を辞めて酒におぼれ、家族を崩壊させ、自殺未遂をし、やがて行方不明となってしまう。ところが事件から40年が経った頃、突然マスコミの前に現れて「あの裁判は間違っていた」と語りだす。その姿をテレビや新聞は大きく取り上げ、海外のメディアからも勇気ある発言、良心的な判事だと、その行動を賞賛する報道が相次いだ。
しかし取材を重ねていくと、「良心ある告白をした美談の男」とは別の、もう一つの顔があることが、だんだんと分かってくる。そして熊本自身も「この話を決して美談にしてはいけない」と著者に念を押すようになる……。熊本の本心は何なのか。償いなのか、それとも売名行為なのか?
完全版では、2014年3月27日、静岡地裁が再審決定をして、袴田さんが東京拘置所から釈放された以降の出来事を取材する。熊本がついに袴田巌さんと面会できたときのこと、2020年に福岡県の病院で亡くなった熊本のこと、2023年、東京高裁の再審開始決定のことなどについて、熊本の親族、弁護団、支援の会の人々、袴田さんや姉の秀子さんに再取材して、熊本典道の人生について再び考える。
「解説」は、江川紹子氏。「特別付録」では、佐藤優氏のコラム、朝日新聞取材班の記事、静岡地裁の元裁判官で2014年に再審を決定し袴田さんの拘置を停止した村山浩昭氏や東京高裁の元裁判官・木谷明氏の講演録を転載する。これらを読めば、袴田事件は、私たちに何を問いかけているのかが分かる。
※「完全版」は、2014年3月、静岡地裁が第二次再審請求で再審決定した後、検察が即時抗告した後の出来事を取材し、巻頭の口絵のほか、新章として「完全版まえがき」「Ⅹ さらに九年後」を付け加えました。江川紹子氏の解説は「完全版のための追補」を加筆、巻末には「特別付録」として、佐藤優氏のコラム、朝日新聞の記事、村山浩昭元静岡地方裁判所判事と木谷明元東京高裁判事の講演録を転載しました。