至誠堂書店

財産の集合的把握と詐害行為取消権 詐害行為の基礎理論 第2巻

財産の集合的把握と詐害行為取消権 詐害行為の基礎理論 第2巻

販売価格: 7,920円 税込

数量
著者
片山直也・著
発行元
慶應義塾大学出版会
発刊日
2024-04-05
ISBN
978-4-7664-2955-8
CD-ROM
無し
サイズ
A5判上製 (480ページ)




法秩序の重層構造と動態的法形成。

この分析視角と問題意識を深化させ、

「財産の集合的把握」という新たな現代的課題に挑む第2巻。



本書は、第1部「財産の集合的把握の新たな展開」と第2部「包括財産法制と詐害行為の基礎理論」からなる。



第1部では、詐害行為との関係を第2部で論じる前提として、フランスにおける議論を参考としつつ、「財産の集合的把握」について、広い視点から論じられる。

出発点となるのが、第1章の「フランスにおける財産―bienおよびpatrimoine」である。第1章は、新たな財の特徴として、「複合性(complexité)」と「代替性(fongibilité)」という点を指摘するが、それが第2章以下の底流となっている。次いで、第2章第1節「財産の集合的把握の諸相」が本書第1部の中核をなす部分である。そこでは、まずは財産の集合的把握を、「固定資産の一体的把握」、「流動資産の一体的把握」および「事業の一体的把握」の3つの類型に大別して、そこにおける集合的把握の本質が「利活用(exploitation)」という点にあることが抽出される。そのうち「事業の一体的把握」については、「財の集合的把握」というアプローチとは別に「資産の分離」というアプローチが可能である。他方、財の集合的把握の一類型として、「金融資産の一体的把握」があるとし、そこでの集合的把握の本質は「運用・価値増殖(valorisation)」にあるとする。第2節では、特に「事業の一体的把握」の一例として「営業財産」を取り上げる。

以上の基本的な問題意識を前提として、第1部第3章では、財産の集合的把握の本質の一つである「利活用(exploitation)」を法的に保障する枠組みとして、所有権を「権能」の束と把握する分析視角の有用性を指摘し、物権ないし物権法を再構成すべき点を、物権法の改正提案も視野に入れて提言する。

次いで、第4章では、財産の集合的把握が喫緊の課題とされている担保法の分野について、フランス法だけではなく、ベルギー法とケベック法を比較検討して、近時の動産・債権担保法制をめぐる新たな二元的構成の動向を、財産の集合的把握の2つの本質論である「利活用(exploitation)」と「運用(valorisation)」という点から分析を行われる(第1節)。さらに担保における財産の集合的把握を「担保価値維持義務」論から補強し、財産の集合的把握と詐害行為取消権との関係が示唆される(第2節・第3節)。最後に第4節では、第1部の集大成として、今般の担保法改正で注目されている「事業担保」など事業の収益性に着目した担保を、財産の集合的把握の視角から3つの類型に整理し、理論的な課題として、事業担保における①収益把握の意義および②担保価値維持義務とコベナンツの関係という2つの点を検討し、立法に向けた指針が提示される。



第2部「包括財産法制と詐害行為の基礎理論」では、第1部「財の集合的把握の新たな展開」の考察を踏まえて、いよいよ財産の集合的把握と詐害行為取消権との関係が論じられる。本書が、著者の最初の論文集である前著『詐害行為の基礎理論』の第2巻として位置づけられる所以が存する。

第1章は、平成29年(2017年)の民法(債権関係)改正により新設された詐害行為取消権規定の構造を、動態的な法認識論の視角から、従前の「狭義の詐害行為」と「偏頗行為」という「類型論」から一歩進化した、424条1項を「一般規定」とする「重層的規範構造」を有するものとして分析する。その基礎法学的な分析に基づいて、第2章では、実践的な課題として、「濫用的会社分割・事業譲渡」の紛争類型を、その規範構造によってはじめて対応可能となるハードケースの一例として取り上げる(第1節)。第2節では、同様の分析視角が「事業信託」に応用される。第3章では、濫用的会社分割の紛争類型の法的対応を通して、詐害行為取消権の効果として「価額償還請求」の意義、「対抗」「対抗不能」の意義について再考察がなされる。

最後に、「法秩序の重層的構造と動態的法形成」と題された「結語」では、サブタイトル「詐害行為(fraude)の一般法理」がその一貫性を示すように、前著『詐害行為の基礎理論』(第1巻)および本書『財産の集合的把握と詐害行為取消権』(詐害行為の基礎理論・第2巻)に共通する動態的な法認識論的な方法論が整理される。


【目次】
序 論 新たな自由社会における詐害的な行為に対する私法上の法規制――フランスの「詐害(fraude)」法理からの示唆
Ⅰ はじめに――フランスの「詐害(fraude)」法理を起点として/Ⅱ 濫用的会社分割への対応/Ⅲ 集合動産譲渡担保における設定者の処分権限の規律/Ⅳ 本書の構成

第1部 財産の集合的把握の新たな展開
第1章 財 産――bien およびpatrimoine
Ⅰ はじめに/Ⅱ 財(biens)/Ⅲ 資産(patrimoine)/Ⅳ 小括――新たな財と「財の法」の課題

第2章 財産の集合的把握
第1節 財産の集合的把握の諸相
Ⅰ はじめに/Ⅱ 財産の集合的把握のニーズ/Ⅲ 財産の集合的把握の諸相/Ⅳ 財産の集合的把握の基本構造/Ⅴ 小括――財産の集合的把握と財の法(物権法)

第2節 営業および営業財産
Ⅰ はじめに/Ⅱ 営業/Ⅲ 営業財産/Ⅳ 小括――営業譲渡と営業上の債務の帰属

第3章 財産の集合的把握と利活用・管理
第1節 財産の「利活用(exploitation)」と「権能」
Ⅰ フランス法における「利活用(exploitation)」概念/Ⅱ 「利活用(exploitation)」概念とその法的保障/Ⅲ 小括――「権能の束」としての所有権と他物権

第2節 財産の管理と物権法
Ⅰ はじめに/Ⅱ 財産管理の概念/Ⅲ 財産管理の法制度/Ⅳ 財産管理における「権限」と「権能」/Ⅴ 財産管理と物権法の再構築/Ⅵ 物権法の改正提案/Ⅶ 小括――もう一つの「管理」

第4章 財産の集合的把握と担保
第1節 動産・債権担保をめぐる新たな2つの動向
Ⅰ 序/Ⅱ ケベック担保法の展開/Ⅲ ベルギー担保法の展開/Ⅳ フランス担保法再考/Ⅴ 小括――「利活用(exploitation)」、「運用(valorisation)」と担保

第2節 担保価値維持義務の3つの淵源
Ⅰ はじめに/Ⅱ 担保価値維持義務をめぐる近時の議論の動向/Ⅲ 担保価値維持義務をめぐる3つの淵源/Ⅳ 小括――担保価値維持義務論の展開

第3節 約定の担保価値維持義務と担保価値維持協力義務――借地上建物への抵当権設定における「念書」を素材として
Ⅰ はじめに――問題点の整理/Ⅱ 従前の裁判例および学説/Ⅲ 最高裁平成22年9月9日判決/Ⅳ 小括――担保価値維持義務の視点から

第4節 事業の収益性に着目した担保をめぐる2つの理論的課題――財産の集合的把握論と担保価値維持義務論から
Ⅰ はじめに/Ⅱ 「事業の収益性」に着目した担保の3つのモデル/Ⅲ 事業担保の目的(客体)とは何か?――財産の集合的把握の視角から/Ⅳ 事業担保権の期中における管理/Ⅴ 小括――事業の収益性に着目した諸種の担保の役割分担


第2部 包括財産法制と詐害行為の基礎理論
第1章 詐害行為の類型と法規範の構造
第1節 「類型論」から「重層的規範構造論」へ
Ⅰ はじめに/Ⅱ 詐害行為における類型論の諸相/Ⅲ 規範構造論としての類型論の限界――「類型論」から「重層的規範構造論」へ/Ⅳ 小括――動態的法形成

第2節 否認権・詐害行為取消権における「有害性」と「不当性」
Ⅰ 序――本節の目的/Ⅱ 否認規定・詐害行為取消規定の規範構造/Ⅲ 「有害性」「不当性」の要件枠組み/Ⅳ 小括――「有害性」「不当性」に関する否認権と詐害行為取消権との本質的な相違点

第2章 事業資産の分離と詐害行為取消権
第1節 濫用的会社分割・事業譲渡と詐害行為取消権
Ⅰ はじめに/Ⅱ 平成24年判決の今日的意義および課題/Ⅲ 濫用的会社分割の本質と詐害行為の類型/Ⅳ 平成29年改正民法における詐害行為取消規定と濫用的会社分割

第2節 事業信託と詐害行為取消権
Ⅰ はじめに/Ⅱ 濫用的組織再編行為と詐害行為/Ⅲ 充当資産(patrimoine d’affectation)論と信託財産責任負担債務/Ⅳ 小括――いわゆる「事業の信託」とその濫用

第3章 詐害行為取消しにおける価額償還請求権の新たな機能――詐害行為取消しと被保全債権の「対抗」
Ⅰ はじめに/Ⅱ 改正前民法における価格賠償請求/Ⅲ 濫用的会社分割の取消しをめぐる議論の展開/Ⅳ 平成29年改正民法における価額償還請求/Ⅴ 小括――被保全債権の「対抗」という視角の有用性

終 章 法秩序の重層構造と動態的法形成――詐害行為(fraude)の一般法理を起点として
Ⅰ はじめに――「フロード(fraude)法理の動態的把握」を起点として/Ⅱ 「法原則」(プリンシプル)と「法規範」(ルール)/Ⅲ 「指導的法原則」と「矯正的法原則」/Ⅳ 法認識と「法原則」/Ⅴ 「法規範」(ルール)における「例外」の許容/Ⅵ 法規範の拡張としての「法的擬制」/Ⅶ 法規範の縮小としての「特段の事情」/Ⅷ 結びに代えて――法秩序の重層構造と動態的法形成
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